「シャイニング」の概要
1980年公開の「シャイニング」、ドアの裂け目から見えるジャック・ニコルソンの狂気の沙汰と化した顔が余りにも有名です。原作は1977年出版スティーヴン・キングの小説で、スタンリー・キューブリック監督脚本で映画化されました。
出演は徐々に精神を犯されていく父親役にジャック・ニコルソン、その妻にシェリー・デュヴァル、息子役にダニー・ロイドと3人を中心にスキャットマン・クローザースが脇を固めます。タイトルの「シャイニング」とは超能力などの意味を持ち、映画では息子がその能力を持つ存在として描かれています。
キューブリックといえば、「ロリータ」「2001年宇宙の旅」「時計仕掛けのオレンジ」の様に不思議で一見理解するのが困難な作品が多く、その世界観は「シャイニング」も普通のホラー映画ではない作品に仕上げているように思えます。
実在のホテルを舞台にし、美しく正確なシンメトリーの映像が多く幽霊の双子の少女やエレベーターから溢れる血の海すら芸術的です。
ところが結果的には原作者であるキングの望む所とはかけ離れていた作品となり、彼を激怒させてしまいます。脚本はキングの要素は無く、選ばれた俳優陣はいかにもこれから狂っていくぞと解る顔ぶれ(笑)に納得できず、2人は犬猿の仲に。
後に同名のテレビシリーズをキング自身が作るほど気に入らなかったようです。
「シャイニング」のあらすじ

売れない作家のジャック・トランスは、生活のためにホテルの支配人の仕事を受けようとしていました。コロラド州のロッキー山脈にたたずむそのホテルは、「オーバールック・ホテル」といい長い冬の間は閉ざされてしまいます。
数ヶ月ものあいだ雪に覆われ道も止められる為、管理人は泊まり込みで建物の状態を保つのが仕事でした。
ボイラーの火を絶やさず、常に建物を暖める事が必要でしたが他にする事は無く、ただただ冬が行き過ぎるのを待つだけです。
ジャックにとって、その時間は新しい小説を書き上げる為にちょうど良く静かな空間を独り占め出来る、もってこいの仕事だと思えました。
面談を済ませ、早速妻ウェンディと一人息子のダニーを連れホテルにやって来ます。
ロビーは広く賑やかで、帰り支度の客達で溢れていた。
間もなくこの素敵なロビーは自分ひとりの物になり、ここで新しい作品を完成させるのだと想像を膨らませるジャック。
ところがホテルの中を案内されている時に、支配人は思わぬ事実を打ち明けます。
以前管理人として務めた男が、精神を犯されてしまいホテルの中で自分の妻と2人の娘を斧で殺し自殺を図ったというのだ。
この仕事を逃せば後がなかったジャックは、そんな事は自分には起こるはずがないと正式に引き受けます。

一方息子のダニーは、ホテルを訪れる前から嫌な予感に襲われていました。
ダニーの頭の中の友達トニーは行く事を拒みますが、母のウェンディは気にも留めません。
ホテルに着くと、嫌な予感は現実のようにダニーに色々な“もの”を見せてきます。
それに気が付いたのは料理長のハロランでした。
彼はダニーが人に見えないものを見たり感じたり出来る能力「シャイニング」を持つ者だと見抜き、自分自身もそうだと教えます。それはあまり嬉しくない能力でした。
目の前に突然現われる双子の少女や、エレベーターから押し寄せる血の海に襲われダニーの心は恐怖に支配されていきます。
すべての従業員もいなくなり、家族3人だけ。
不気味な静けさを持ってしまったホテルは、何者かがひそんでいるかのようだった。
そんな広いホールの真ん中で、ジャックは一心不乱にタイプライターを打ち続ける。

ある日ウェンディは、できあがった小説の一部をのぞき見してしまいます。
そこに書かれていたのは「仕事ばかりで遊ばない・・ジャックは今に気が狂う」・・・同じ言葉が並んでいるのだった。
ジャックの中で何かが起き、それは徐々に心や頭の中を蝕み彼を追い詰めていきます。
その顔はもう以前の彼ではなくなっていました。
スタンリー・キューブリックの世界観
閉ざされた空間で閉塞感を感じ始めた父親が、ゆっくりと正気を失い家族を襲う話。
物語的にはキング原作の小説を読んだ方が断然解りやすく、面白いのかも知れませんね。
ただのホラー映画ではない難解さと、芸術的でまるで絵の様な作品。
それもそのはず、監督はあのスタンリー・キューブリック。
エンターテイメント的なホラー映画を期待すると、なんだこれ?なんて感じるかも。
細かな台詞や人物像、ストーリー的な背景の説明が少なくても、キューブリックは視覚と聴覚から心底恐怖というものを煽ってきます。
オープニング、山道をひたすら車が走るだけの場面からこれから起こる恐怖を予感させ、ダニーの三輪車が走るホテルの長い廊下では、どこまでも続く幾何学模様が不気味な雰囲気を見せる。
観た者に狂気を想像させる映画とでも言うのかな。
「シャイニング」は完全にキューブリックの世界観なのです。
キューブリックとジャック・ニコルソンの顔はどちらも「シャイニング顔」
タイトルの「シャイニング」は、息子のダニーや料理長ハロランの持つ能力を表す言葉なのですが、誰もがこの映画から連想するのは、狂ったジャックの顔でしょう。
バスルームのドアの向こう側、「オオカミなんて いれないぞ~」と言うあの顔はジャック・ニコルソンだから出来たと思えます。
ところで、監督のキューブリックの顔はご存じですか?
眉毛を三角につり上げ目を見開いた顔は、どことなくジャックに似ているような・・・。
狂気を表現する彼等は、どちらも「シャイニング顔」なのだ。

モデルとなったスタンリーホテル

映画の中の「オーバールック・ホテル」はコロラド州ロッキー山脈に存在する「スタンリーホテル」がモデルです。撮影は巨大なセットを作り行われ、あの雪に覆われた玄関は張りぼてで、素晴らしい迷路も現実に存在はしません。
スタンリーホテルは発明家フリーラン・オスカー・スタンレーがオーナーで、彼自身が結核療養の為にこの地を訪れ、その後体調が改善されたことからホテル建設を始めます。
現在の上皇様をはじめ多くの著名人が宿泊された美しく由緒あるホテルですが、アメリカでは幽霊が出ることで有名。その発端となる出来事がガス爆発事故でした。
スタンリーは申し訳無い気持ちから彼女をホテルで雇い続け、メイドもまた生涯をホテルに捧げ死ぬまで勤め上げたそうです。
それ以来、217号室には彼女の幽霊が出ると噂されるようになりました。
メイドの幽霊だけでなく、子供の霊や誰も居ないのに聞こえる声など噂話は広がり伝わっていきます。
それを耳にしたのがホラー大好きスティーブン・キング。
彼はわざわざ217号室に予約をとるのですが、そこで何故か自分の息子の悪夢を見てしまいます。その夢は、ダニーが三輪車でホテルを走り回るという構想に組み込まれました。
作家魂に火が付いた(かどうかは不明 笑)キングは、あらゆる妄想を膨らませ、217号室で「シャイニング」を書き上げたのです。
はたしてキングには幽霊が見えたのでしょうか。
監督スタンリー・キューブリックのバイオグラフィー
1928年7月26日アメリカ・マンハッタンで生まれました。
天才と呼ばれた彼は、子供の頃は大人しく真面目、特に目立って優秀ではなかったようです。人とのコミュニケーションが苦手で、写真や映画・音楽ジャズに夢中になりアーティストを目指します。後に一枚の写真が雑誌「ルック」に掲載されたことがきっかけで、見習いカメラマンとして同雑誌社で働くことになります。
その後短編ドキュメンタリーを制作するなど、映画の世界に本格的に足を踏み入れることに。徐々に才能を現し長編映画は批評家に絶賛されます。ところが興行的には失敗してしまうという、決して喜ばしい結果ではありませんでした。
キューブリックと言えばちょっと変わった人と言われ、作品自体個性的で難解とされます。几帳面な性格で完璧主義、納得するまで映像を何度も撮り直す事でも有名です。
その為か、人と対立する事も多くあったよう。
ハリウッド映画第一作目「現金に体を張れ」は、多くの著名人から絶賛されました。
その中の1人俳優カーク・ダグラスは彼をかなり気に入り、次回映画である「突撃」の主演を承諾します。しかしその後キューブリックが勝手に脚本を変えたことで、ダグラスは激怒し不仲に。
それでも大人なのか、ダグラスは自らの「スパルタカス」の監督代行をキューブリックに依頼。結果「スパルタカス」は大ヒット、キューブリックも一躍有名に。
ところが当のキューブリックには、一切自分の思い通りにならない制作が屈辱だったようで、後々もダグラスの悪口を重ね2人の関係は悪くなるばかり。
まるでシャイニング状態です!
結局アメリカすら嫌になったキューブリックはイギリスへ移住してしまうのでした。
なんだか自分勝手で大人げないし、サイコパスじゃない?とも思える彼。
映画に多くにみられる暴力性や欲望、人間の奥に隠された心理など、観たくないようなちょっと覗いてみたいような・・・そんなテーマが多いのも納得できます。
「時計仕掛けのオレンジ」なんてその最たるものですね。
70歳で亡くなるまで完成させた作品は、多くの賞にノミネートされました。
作品はそれほどに評価が高いのですが、アカデミー賞は「2001年宇宙の旅」の視覚効果賞のみです。
彼はノミネートされた会場にすら顔を出さなかった、それは賞そのものに興味がなかった訳ではなくただ飛行機が嫌いだったから。
自分自身免許も持ち操縦もしていましたが、度重なる危険な経験と仲間の事故死から飛行機には乗らないと決心したようです。
なので、イギリスに行ってからのキューブリックは映画撮影も全てイギリスで行いました。
遺作となった「アイズ ワイド シャット」は、納得した撮影が出来るまで1年以上かかり、当時夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンをイギリスに住まわせたほど。
自分が飛行機に乗らなくて済むように。やっぱり自分勝手(笑)
異論が無かったトムと嫌だったニコール、不仲になったのはこのせいだという話もあるようです。
いずれにしても、人が考えつかないような映画制作をするのがスタンリー・キューブリック。天才と何とかは紙一重・・・なのは本当かもしれません。
「シャイニング」のキャスト
1.ジャック・ニコルソン=ジャック・トランス役
驚きの生い立ち
1973年4月22日アメリカ・ニュージャージー州に生まれる。
母親はアイルランド系のショーガールで、出産した当時わずか16歳。しかも父親は家庭持ちだった事から、ジャックは私生児として誕生した。
複雑な状況を可愛そうに思った祖父母は、ジャックを我が子として、実の母親は年の離れた姉と教え育てました。結局、祖父母は真実を教えないまま亡くなり、ジャックは俳優になりややしばらく経ってから全てを知るところとなります。
演技派俳優
アカデミー賞の常連で、ここに記すまでもなく数々の賞に輝いたジャック・ニコルソン。
高校を卒業し、演技の勉強をしながらの下積み生活は長く続いたようです。
アニメ制作から撮影スタッフ、脚本家としてまで働きやっとB級映画に出演するように。
そこでピーター・フォンダと出会い、俳優人生の転機となった「イージー・ライダー」出演へと繋がるのです。この作品で、一躍彼の名は知られる様になります。
様々な役をこなし、いくつもの顔を見せる彼は「自由気まま責任感が無く女にだらしない男」を演じさせると超一流!こうして「ファイブ・イージー・ピーセス」「カッコーの巣の上で」「郵便配達は二度ベルを鳴らす」など多くの名作が生まれていきます。
「恋愛小説家」「バットマン」「ディパーテッド」と、誰もが知る面白くてたまらない多くの作品には、必ず彼がいる!といえるほど唯一無二の俳優です。
晩年は残念なことに映画から遠ざかっているようですが、きっと彼を待ち望むファンは多くいるでしょう。
2.シェリー・デュヴァル=ジャックの妻 ウェンディ・トランス役
女優を夢見たわけではなかったシェリー
1949年7月7日テキサス州ヒューストンで生まれる。
ごく普通の家庭で、両親と3人の弟の姉として育ちます。
社会人となりやがて結婚をした彼女は、夫とあるパーティーに出席し偶然映画撮影のスタッフと知り合うことに。シェリーの持ち前の明るさに魅力を感じた彼等は、彼女を口説き落として映画の世界に引き入れました。
それをきっかけに女優としての道を歩き始めた彼女は、スターとしての成功を獲得します。
多くの映画やドラマ作品に出演し、カンヌ国際映画祭女優賞や、ロサンゼルス映画批評家協会主演女優賞などを受賞、53歳で引退してしまいます。
トリビア
ウディ・アレンの「アニー・ホール」に出演した時、ポール・サイモンと出会い恋に落ちます。そう、サイモン&ガーファンクルのポール。
ふたりは結婚も考える程の仲でしたが、友人のキャリー・フィッシャーに彼を紹介した後、ポールはキャリーに方向転換! なんて酷い話だろう。
「シャイニング」では、キューブリックが出す何十回ものテイクに叫び声をあげ続けたシェリー。おかげで誰もが納得できる「シャイニング」のあのシーンができあがったのですが、変わり者のキューブリックはこれでもかとストレスを与え、彼女を追い込んでいったと言われます。その結果、長い撮影中彼女は抜け毛に悩まされたとか。
ウエンディも神経質な顔つきになっていく訳が、ここにあったのですね。
大作シャイニングの翌年、実写版「ポパイ」でポパイの恋人オリーブ・オイルを演じています。見た目そんな美人ではなく(失礼!)細く棒のような体。
うーんなるほど!まさしくオリーブと納得。
監督は彼女こそオリーブと絶賛し、その存在感を褒め称えています。
ダニー・ロイド=ジャックの息子 ダニー・トランス役
オーディションで見いだされた才能
1972年10月13日 アメリカ・イリノイ州 シカゴ生まれ。
5000人もの候補者から選ばれ、ジャックの息子役を勝ち取ったダニー・ロイド。
愛らしい目をした可愛い男の子は、当時6歳ながら並外れた集中力を持ちました。
それは正しく、キューブリックの求める才能そのものだったのです。
しかしまだ幼いダニー、ホラー映画に出演していることをキューブリックは知らせたくなかったようで、撮影期間もかなり気を使います。その甲斐あってか、ダニーはその後数年間自分の出た映画がどんなものか知らずにいたのでした。
「シャイニング」終了後、テレビ出演をいくつか果たしますがあっけなく引退。
俳優に余り情熱は感じなかった様ですね。
現在は教師としての生活をおくり、普通の家庭の良き父親であるようです。
「ドクタースリープ」
「シャイニング」の続編として作られた「ドクタースリープ」。
ダニーが大人になった設定で物語が展開していくのですが、引退していたダニー・ロイドが、カメオ出演しています。
監督のマイク・フラナガンが、ツイッターで偶然ダニーのアカウントを見つけDMでオファーしたのでした。面白いことに、ちゃんとエンドクレジットにも名前が載っているそう!
スキャットマン・クローザース=ホテルの料理長 ディック・ハロラン役
ミュージシャンからの俳優人生
1910年5月23日アメリカ・インディアナ州 テレホート生まれ。
ミュージシャンでもあったスキャットマン、15歳からキャリアを積み違法酒場を中心に活動しました。その後バンド仲間と共に巡業、レコードを出すことに。
徐々にテレビ出演が増え、それがきっかけとなり映画デビューを果たします。
俳優としての頭角を表したスキャットマンは、コメディ映画やミュージカル映画などで
知られるようになります。ジャック・ニコルソンとは古くから親交を持ち、「カッコーの巣の上で」でも看守役で共演、「シャイニング」ではジャックに斧で殺される役どころでした。
そのシーンでは、やはりキューブリックが納得するまで撮り直しが続きます。
スキャットマンには年齢的にハードだと感じたジャック・ニコルソン、見かねてキューブリックにOKを出すように直談判したという話もきかれます。
スキャットマンはこの作品で、サターン助演男優賞を受賞しました。
1986年肺がんからの肺炎をおこし、11月22日に76歳で亡くなりました。
現在『シャイニング』を視聴できる動画配信サービス
配信サイト | 視聴方法 | 無料お試し期間 | 利用料金 | |
---|---|---|---|---|
U-NEXT | 見放題 | 31日間 | 月会費2,189円(税込) | |
Leminoプレミアム | 見放題 | 31日間 | 月会費990円(税込) | |
Amazonプライム | 見放題 | 30日間 | 月会費500円 年会費4,900円(税込) |
最新の配信状況は各動画配信サイトにてご確認ください。
併せて読みたい記事



