ホロコーストを題材にした作品“否定と肯定”(原題:Denial)

ホロコーストの否定から始まった法廷ドラマ

第二次大戦中にもドイツ軍がユダヤ人を迫害しているという話は世界各国に流れていましたが、ホロコースト(死の行進)の実態が明らかになったのは第二次世界大戦の終盤である1945年4月のことです。

米陸軍101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊がドイツ領内に侵攻し、森をパトロールしているときに、開けた土地に広がる鉄の柵に囲まれた収容所を発見します。そこにいたのは多数の痩せこけたユダヤ人収容者達でした。

収容者から事情を聴き、ほかにもたくさんの収容所があることを知った連合軍は、様々な場所に収容所があることを突き止め、そこで行われていたドイツ軍の蛮行が明らかになりました。

ドイツ軍では敗戦と同時にユダヤ人を大量殺害する手段としたガス室を爆撃によって破壊していましたが、それが要因で自称歴史学者のデイヴィッド・アーヴィングがホロコーストはなかったとする著書を出版しました。

ユダヤ人でありアメリカ人女性の歴史家デボラ・リップシュタットさんは、アーヴィングの著書に対してのコメントをしており、それがアーヴィングンにとって「ホロコースト否認論者である」と中傷しているとして、名誉棄損でリップシュタットさんを提訴。

このことを受けたリップシュタットさんは、アメリカ人でありながらイギリスで裁判を受けることに。その法廷を忠実に再現した法廷ドラマです。

裁判はリップシュタットさんが思っているようなやり方ではなかった

リップシュタットさんが被告側の立場で裁判を受けるにあたって、イギリスの優れた弁護団がつくことになります。そのため弁護団の一人アンソニー・ジュリアスは、リップシュタットに対して、証人としては立たずに沈黙するように言います。もちろんリップシュタットさんは納得するはずもなく、裁判当初は弁護団との間に不穏な空気が流れていたということ。

実際ホロコーストの有無を争う裁判をイギリスで行うということ自体前代未聞でした。そして、この弁護は正当性を訴える弁護となり、英国の特殊性を利用して進めていくということに。

被告側が裁判の流れを握れば、アーヴィングを裁ける立場になるのです。そのために否定する動機を攻めれば、わざわざ恐怖体験を証言してもらうこともない。そして、アーヴィングの20年以上に渡る膨大な日記を利用することにします。このことにもリップスタットさんは疑問を感じていたそうです。実際の被害者が証言することを願っていた彼女には、とても納得のいくものではありませんでした。

そして、この途方もない裁判の費用は、リップシュタットさんが寄付を募ってすぐに集まったそうです。中にはスティーブン・スピルバーグ監督も寄付していたということでした。

法廷弁護人はイギリス一の弁護士リチャード・ランプトン

実際に法廷に立って争う弁護士は、英国一の評判を持つ名誉毀損弁護士であるリチャード・ランプトンが担当しました。彼は弁護を引き受けると決まった時点で、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所跡に行くことを提案します。

提案というか、彼の頭の中では既に行くと決めていたようです。リップシュタットさんの同行も促され、渋々行くことになります。現地に着くと肝心のランプトン弁護士の姿が見えません。時間を守れないと疑ったリップシュタットさんでしたが、この理由は作品の最後にわかってきます。

ランプトン弁護士は、自身でも言っている通り「人間の本質を見抜く本能がある」という、洞察力の優れた弁護士です。法廷では不安が残るリップシュタットさんを横目に、アーヴィングに次々と鋭い質問を浴びせ、被告側のペースに持っていきます。リップシュタットさんもそんな弁護士や弁護団を見ていて、次第に懐疑心を緩めていきます。

アーヴィングのような人間に哀れさまで感じる作品

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所跡の光景は、何とも言えない不気味さと切なさが漂っています。ホロコースト関連の映画を何度見ても、この収容所の光景には慣れることができませんでした。

沢山の作品がある中、様々な人たちがホロコーストの出来事を想像または思い出しながらこういう作品を目にすると、戦争は人間の心まで脅かしてしまう化け物のようなものだと思うでしょう。また、見ることができない人もいるのではないでしょうか。

そんな中、反ユダヤ主義者たちの考え方にも着目せざるを得ないのですが、同じ人間を差別するということに悪寒が走りますし、この手の人間を人間として扱えない人間を、哀れにも思える瞬間です。

キャスト

  • デボラ・E・リップシュタット:レイチェル・ワイズ
  • リチャード・ランプトン:トム・ウィルキンソン
  • デイヴィッド・アーヴィング:ティモシー・スポール
  • アンソニー・ジュリアス:アンドリュー・スコット
  • ジェームズ・リブソン : ジャック・ロウデン
  • ローラ・タイラー: カレン・ピストリアス
  • サー・チャールズ・グレイ判事:アレックス・ジェニングス
  • ロベルト・ヤン・ファン・ペルト:マーク・ゲイティス
  • レオニー:アンドレア・デック
  • メグ:サリー・メシャム
  • リチャード・J・エヴァンス教授:ジョン・セッションズ
  • リリー・ホルブルック:ニキ・アムカ=バード
  • ヴェラ・ライヒハリエット・ウォルター:ホロコースト生還者

製作スタッフ

  • 監督:ック・ジャク
  • 脚本:デヴィッド・ヘアー
  • 原作:デボラ・E・リップシュタット 『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる戦い』
  • 制作:ゲイリー・フォスター、ラス・クラスノフ
  • 音楽:ハワード・ショア
  • 撮影:ハリス・ザンバーラウコス
  • 編集:ジャスティン・ライト
  • 日本公開:2017年12月8日
  • 上映時間:107分
  • 制作国:イギリス、アメリカ
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本ページの情報は2021年9月1日時点のものです。
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